あるプログラムを実行可能とする処理が、 システムリソースの使用を最適化しつつ正しく完了するよう、 複数のユーティリティが協調して働きます。 コンパイラは PIC コードを出力し、 それから ld(1) によって共有ライブラリが作られます。 コンパイラはまた、初期化される各データアイテムのサイズ情報を アセンブラディレクティブ .size を用いて記録します。 PIC コードは、ある間接テーブルを通じてデータ変数にアクセスする点で 従来のコードと異なっています。 この表はグローバルオフセットテーブルと呼ばれ、 慣習によって、予約名 _GLOBAL_OFFSET_TABLE_ によってアクセス可能です。 ここで用いられるメカニズムの詳細は機種依存ですが、通常は そのマシンのレジスタ 1 本がこの用途に予約されます。 このような仕組みの背景にある合理性は、 実際のロードアドレスとは独立したコードを生成することです。 実行時には、アドレス空間において様々な共有オブジェクトがロードされるアドレス に応じて、グローバルオフセットテーブルに含まれる値のみ変更すればよいのです。
同様に、大域的に定義された関数の呼び出しは、 コアイメージのデータセグメント中に置かれている プロシージャリンケージテーブル (PLT) を通じて間接的に行われます。 これもまた、実行時にテキストセグメントを修正せずに済ませるためのものです。
リンクエディタがグローバルオフセットテーブルとプロシージャリンケージテーブルを 配置するのは、 複数の PIC オブジェクトファイルを結合して プロセスのアドレス空間にマップするのに適した 1 つのイメージにする時です。 リンクエディタはまた、実行時のリンクエディタが必要とする全てのシンボルを集め、 それらをイメージのテキストとデータのビット列と共にストアします。 もう 1 つの予約シンボル _DYNAMIC は、実行時のリンク構造が存在することを示すのに用いられます。 _DYNAMIC が 0 にリロケートされる場合は、実行時リンクエディタを起動する 必要はありません。 もし _DYNAMIC が非 0 なら、_DYNAMIC は、必要なリロケーション情報と シンボル情報の位置を引き出すことができるデータ構造を指しています。 これは特に、スタートアップモジュール crt0 で利用されます。 慣習として、_DYNAMIC 構造体は、 それが属するイメージのデータセグメントの最初に置かれます。
シンボル _DYNAMIC は Fa _dynamic 構造体を参照します:
struct _dynamic {
int d_version;
struct so_debug *d_debug;
union {
struct section_dispatch_table *d_sdt;
} d_un;
struct ld_entry *d_entry;
};
Fa section_dispatch_table 構造体がメインとなる ``ディスパッチャ'' テーブルであり、 イメージ内で様々なシンボル情報やリロケーション情報が置かれるセグメントへの オフセットを保持します。
struct section_dispatch_table {
struct so_map *sdt_loaded;
long sdt_sods;
long sdt_filler1;
long sdt_got;
long sdt_plt;
long sdt_rel;
long sdt_hash;
long sdt_nzlist;
long sdt_filler2;
long sdt_buckets;
long sdt_strings;
long sdt_str_sz;
long sdt_text_sz;
long sdt_plt_sz;
};
Fa sod 構造体は、それを含むオブジェクトのリンクエディット処理を完了するのに 必要な共有オブジェクトを記述します。 そのようなオブジェクトのリスト ( Fa sod_next で連結されます) は section_dispatch_table 構造体の Fa sdt_sods によって指し示されます。
struct sod {
long sod_name;
u_int sod_library : 1,
sod_reserved : 31;
short sod_major;
short sod_minor;
long sod_next;
};
プロセスのアドレス空間にロードされる共有オブジェクト全てを追跡するために、 実行時リンクエディタは リンクマップ と呼ばれる構造体のリストを管理しています。 これらの構造体は実行時にのみ用いられ、 実行可能ファイルや共有ライブラリのテキストあるいはデータセグメントには ありません。
struct so_map {
caddr_t som_addr;
char *som_path;
struct so_map *som_next;
struct sod *som_sod;
caddr_t som_sodbase;
u_int som_write : 1;
struct _dynamic *som_dynamic;
caddr_t som_spd;
};
サイズ付きシンボル記述。 これは単に Fa nlist 構造体にフィールド (Fa nz_size ) を 1 つ追加したものです。 共有オブジェクトのデータセグメントにあるアイテムの サイズ情報を伝達するのに用いられます。 この構造体の配列は共有オブジェクトのテキストセグメントに存在し、 そのアドレスは Fa section_dispatch_table の Fa sdt_nzlist フィールドで指定されます。
struct nzlist {
struct nlist nlist;
u_long nz_size;
#define nz_un nlist.n_un
#define nz_strx nlist.n_un.n_strx
#define nz_name nlist.n_un.n_name
#define nz_type nlist.n_type
#define nz_value nlist.n_value
#define nz_desc nlist.n_desc
#define nz_other nlist.n_other
};
実行時のリンクエディットで行われるシンボル検索を高速化するため、 共有オブジェクトのテキストセグメントにハッシュテーブルが含まれています。 Fa section_dispatch_table の Fa sdt_hash フィールドは Fa rrs_hash 構造体を指し示します:
struct rrs_hash {
int rh_symbolnum; /* シンボル番号 */
int rh_next; /* 次のハッシュエントリ */
};
Fa rt_symbol 構造体は、 実行時にアロケートされるコモン(commons)と 共有オブジェクトからコピーされるデータアイテムを 追跡するのに用いられます。 これらのアイテムはリンクリストで管理され、デバッガでの利用のために Fa so_debug 構造体 (後述) 中の Fa dd_cc フィールドによって公開されます。
struct rt_symbol {
struct nzlist *rt_sp;
struct rt_symbol *rt_next;
struct rt_symbol *rt_link;
caddr_t rt_srcaddr;
struct so_map *rt_smp;
};
Fa so_debug 構造体は、 実行時リンクエディットの結果、当該プロセスのアドレス空間にロードされた あらゆる共有オブジェクトの情報を得るために、 デバッガによって利用されます。 実行時リンクエディタはプロセスの初期化処理の一部として実行されるため、 共有オブジェクトからシンボルにアクセスしようとするデバッガは、 crt0 からリンクエディタが呼ばれた後でのみそれが可能となります。 ダイナミックリンクされているバイナリは Fa so_debug 構造体を持っています。この構造体の場所は Fa _dynamic 中の Fa d_debug フィールドで指示されます。
struct so_debug {
int dd_version;
int dd_in_debugger;
int dd_sym_loaded;
char *dd_bpt_addr;
int dd_bpt_shadow;
struct rt_symbol *dd_cc;
};
ld_entry 構造体は ld.so 中のサービスルーチン一式を定義します。
struct ld_entry {
void *(*dlopen)(char *, int);
int (*dlclose)(void *);
void *(*dlsym)(void *, char *);
char *(*dlerror)(void);
};
Fa crt_ldso 構造体は、crt0 中のスタートアップコードと ld.so との間のインタフェースを定義します。
struct crt_ldso {
int crt_ba;
int crt_dzfd;
int crt_ldfd;
struct _dynamic *crt_dp;
char **crt_ep;
caddr_t crt_bp;
char *crt_prog;
char *crt_ldso;
struct ld_entry *crt_ldentry;
};
#define CRT_VERSION_SUN 1
#define CRT_VERSION_BSD_2 2
#define CRT_VERSION_BSD_3 3
#define CRT_VERSION_BSD_4 4
Fa hints_header 構造体及び Fa hints_bucket 構造体は、通常 ``/var/run/ld.so.hints '' に置かれるライブラリヒントのレイアウトを定義します。 ライブラリヒントは、ファイルシステム中で共有オブジェクトイメージの在処を すばやく見つけるために ld.so によって利用されます。 ヒントファイルの構成は ``a.out'' とそれほど異なりません。つまりヒントファイルは、 固定長ハッシュバケットのオフセットとサイズを決定するためのヘッダと、 共通の文字列プールを持っています。
struct hints_header {
long hh_magic;
#define HH_MAGIC 011421044151
long hh_version;
#define LD_HINTS_VERSION_1 1
long hh_hashtab;
long hh_nbucket;
long hh_strtab;
long hh_strtab_sz;
long hh_ehints;
};
/*
* ヒントファイルのハッシュテーブル要素
*/
struct hints_bucket {
int hi_namex;
int hi_pathx;
int hi_dewey[MAXDEWEY];
int hi_ndewey;
#define hi_major hi_dewey[0]
#define hi_minor hi_dewey[1]
int hi_next;
};